★ セクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)対策の必要性
〜何がセクハラに該当するのか? 明確な基準など存在しません。だからこそ、最善策は予防にある、ともいえます。
セクハラ対策を講じていない、あるいは講じていても機能していない。これは、いうなれば日々オウンゴールを打ち続けていることに等しい、とさえいえるのではないでしょうか?
男女雇用機会均等法
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・11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
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民法
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・44条(法人の不法行為責任)
・415条(債務不履行責任)
・709条(不法行為)
・710条(慰謝料)
・711条(近親者に対する損害賠償)
・715条(使用者責任)
・719条(共同不法行為責任)
・723条(名誉棄損)
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商法
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・78条2項(代表社員の権限)
・261条3項(代表取締役)
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労働契約法
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・5条(労働者の安全への配慮)
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労働安全衛生法
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・71条の2(快適な職場環境形成のため事業者の講ずる措置)
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会社法
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・315条
・600条(持分会社を代表する社員等の行為についての損害賠償責任)
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刑法
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・176条(強制わいせつ)
〜6カ月以上10年以下の懲役
・177条(強姦)
〜3年以上の有期懲役
・178条(準強制わいせつ及び準強姦)
〜176条、177条に準じた刑
・204条(傷害)
〜15年以下の懲役または50万円以下の罰金
・223条(強要)
〜3年以下の懲役
・230条(名誉棄損)
〜3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金
・231条(侮辱)
〜拘留または科料に処する
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上記に加え、事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(いわゆるセクハラ指針)や判例等も絡んできます。
均等法上、セクハラの責任主体は「事業主」です。加害者(行為者)が誰であるかに関わりなく事業主はセクハラ防止・排除の「措置義務」を負うとされます。
A)規定整備義務
ァ)実体規定の整備
・企業方針として、排除すべきセクハラの内容を規定する。
・制裁規定も整備する。
・当該方針を従業員(管理監督者も含む)に周知徹底する。
セクハラ指針3(1)イにおいて、方針を明確化し、労働者に周知・啓発しているとされる例。
◎就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるセクハラがあってはならない旨の方針を規定し、職場におけるセクハラの内容と併せ、労働者に周知・啓発すること。等々。
ィ)手続規定の整備
・苦情、相談の処理手続の整備。
セクハラ指針によれば、事業主は労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ、適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備につき、次の措置を講じなければならない、とされています。
a)相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」)をあらかじめ定めること。
b)上記の相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。(以下、略)
セクハラ指針3(2)イによる上記a)の例。
◎相談に対応する担当者をあらかじめ定めること。
◎相談に対応するための制度を設けること。
◎外部の機関に相談への対応を委託すること。
A事後措置義務(セクハラが発生した場合に、使用者に要請される義務)
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A)調査義務
中立的な立場で、被害者、加害者(行為者)双方の言い分を聴取したか?
当該義務違反が問われた裁判例
・京都セクハラ事件(京都地裁H9.4.17。賠償金額215万円)
・沼津セクハラ事件{静岡地裁沼津支H11.2.26。賠償金額257万円。(和解715万円)}
B)被害拡大回避義務(解雇、退職回避義務など)
セクハラに対する無理解等により、被害者をも解雇したり退職を勧告する、といったいわゆる2次被害を回避する義務。また、加害者に対し(少なくとも、被害者自身からの申し出がない限り、被害者に対し当該措置を講じることは許されないといえる)、事実調査期間中自宅待機を命じることや、調査結果に基づき配転を命じることも含まれます。
当該義務違反が問われた裁判例
・東京セクハラ事件(東京地裁H9.2.28。賠償金額100万円)
・京都セクハラ事件(京都地裁H9.4.17。賠償金額215万円)
C)再発防止義務
セクハラはそれを放置することにより、一層行為がエスカレートしたり、また再発することが多い、とされます。これにより被害者を含めた従業員のストレスが増大し、被害をより拡大することも多く、事業主としては万全の態勢を期すためにも、当該義務の履行が必要といえるでしょう。
当該義務違反が問われた裁判例
・京都セクハラ事件(京都地裁H9.4.17。賠償金額215万円)
また、セクハラは労災認定にも大きな影響を与えます。心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針(改正H21.4.6付き基発第0406001号)別表1(職場における心理的負荷評価表)によれば、セクハラを受けたことによる心理的負荷の強度はUとされ、労災認定の一指標とされています。
それでも、大半の労基署はセクハラに起因する労災認定をほとんど認めてこなかった(個人的な問題、業務が原因ではない等)ようですが、2005年12月に厚労省は、
・セクシュアルハラスメントは原則として業務に関連する出来事として労災認定の対象となる。
・被害が極端に大きい場合は当然のこととして、そうでなくても被害発生後の職場の対応が不適切な場合などは認定の対象とすべき。
との通知(2005.12.1労基補発第1201001号)を発しています。
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この点は、事業者として特に注意を払ってほしいところの一つです。(当然ですが、確実に認定される、というわけではありません)
D)被害回復義務
具体例
・被害者への謝罪
・損害賠償措置(慰謝料の支払い)
・責任の明確化(加害者本人、監督者等の処罰、被害者の労働条件上の不利益の回復等)
セクハラ対策において重要なことは何と言っても予防することです。それには、均等法11条による措置義務を確実に履行していくことです。そうすれば、万が一訴訟になっても主張すべき材料がない・主張内容が貧弱、といった事態は避けられるでしょう。
また、司法改革による弁護士の増加。これにより、我が国においてもこれまでは見過ごされてきた(あるいは泣き寝入りしてきた)被害が顕在化され、法廷の場で裁かれる事件が増えることは確実です。さらに労働審判制度の創設に伴い、被害者と司法の距離は事業主の想像以上に近くなっています。
労働審判における労働者側の勝訴率は通常訴訟のそれ(労働者側の勝訴率が、一説には80%、という意見もあり)よりも高いと思われます。ということは、今後ますます従来のような“泣き寝入り”をする被害者は減少していく可能性が高いでしょう。
何ら対策を講じていない、あるいは形だけの相談窓口設置等では、会社が苦労して積み上げてきた社会的信用、企業価値、従業員のモティベーション等、決して一朝一夕では構築できないモノを瞬時に喪失する事態を招きかねません。
失うものは、損害賠償による金銭だけではないのです。
たなか社会保険労務士事務所は、セクハラを含むハラスメント問題に関し、会社側の目線に立った予防対策、措置義務対策等に関しアドバイスをしていきます。「一度相談したい」「話を聞いてほしい」と思われた時は、ご連絡下さい。
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